菅野楓さんは、2017年度の未踏ジュニア修了生。映画の脚本をテキスト分析してストーリーを評価する「narratica〜ストーリーコンサルタント〜」というプロジェクトに取り組みました。本記事では、当時の様子について伺った話をまとめています。
新しいものを学ぶことが
楽しかった
──未踏ジュニアに応募する前は、どんなことをされていましたか?
菅野さん:
プログラミングを始めたのは、9歳か10歳ぐらいのときです。最初は、新しいものを学ぶこと自体が楽しくて、なるほどこんな言葉があるのか、みたいな面白さで続けていました。
小学生のときに応募したU-22プログラミングコンテストで企業賞に入選し、副賞でドローンを頂きました。自分が書いたコードでドローンを好き勝手に動かしたり、QRコードを認識させて着陸させたり、いろいろやっているうちに楽しくなってきました。プログラミングって、コンピュータだけじゃなくてロボットも動かせるし、iPhoneもできるし、Androidもできるし、iPadでもいいし、Webサイトも作れる……みたいなことに改めて気づいて。この新鮮な感じがすごく好きでした。
──未踏ジュニアに応募されたきっかけは?
菅野さん:
U-22プログラミングコンテストの審査員に未踏関係者が何人かいらっしゃって、そこから未踏の話が耳に入るようになりました。ただ、そのときはまだ未踏は雲の上の存在というか、すごい人たちなんだろうなと、ぼんやりと思っていました。
その後、中学校に入学するぐらいの頃に、未踏ジュニアキャンプ(※)に参加しました。
そこで、そのとき持っていたアイデアを、(未踏ジュニアのメンターである)安川さんと西尾さんに相談したところ、「ここをもっとこうすると面白いんじゃないか」みたいなアドバイスをもらいました。この経験が、未踏ジュニアに直結したと思っています。
言語への好奇心から始まり、宮崎駿さんを訪ねる
──未踏ジュニアには、小説のストーリーを解析するプロジェクトで応募されたそうですね。
菅野さん:
はい、このテーマを選んだのは、言語への好奇心からです。小説をコンピュータに解析させて、その面白さがどこから来ているのかを解き明かしたいと思いました。
元々やっていたプログラミングの、言語としての面白さから派生して、人間が使う自然言語がどういうふうに動いていくかみたいなところに興味が広がっていきました。
──このテーマを思いついたきっかけは?
菅野さん:
宮崎駿と宮沢賢治のストーリーが、ちょっと雰囲気が似てるなって思ったのがきっかけです。
宮崎駿の「崖の上のポニョ」がすごく好きだったんですけど、ストーリーの曖昧さや考察の余地が大きいところが、宮沢賢治の、あの釈然としない感じに似てると思って、宮崎駿さんのところへ実際に話を聞きに行ったんです。
──えっ、直接会いに行ったんですか? すごい!
菅野さん:
はい。スタジオに何回も通って、3回目にやっとお会いすることができました。すごく嬉しかったですね。
宮崎駿さんは、宮沢賢治にも影響を受けたというお話をしてくださって、宮沢賢治の不器用な生き方みたいなのが好きとおっしゃっていました。お話が聞けて本当に良かったです。
同じ尺度で測られない、
初めての経験
──実際に未踏ジュニアに採択されたときは、どう感じました?
菅野さん:
通ったと分かったときは、これからすごいことが起こるぞ、みたいなワクワク感が強かったです。何か1つの大きなプロジェクトを作って、その過程でいろんな人に助けをもらえるみたいな機会は、それまであまりなかったので。
──未踏ジュニアを実際にやってみて、どうでしたか?
菅野さん:
私はいまイギリスに留学しているのですが、この選択をしたきっかけのひとつに未踏ジュニアがあるというのは、ずっと思っています。
未踏ジュニアのコミュニティでは、誰一人として同じ尺度で測られることがないんです。日本の学校だと試験がいっぱいあって、良い点数をとった人が成績が良い人という絶対的な尺度があるじゃないですか。
でも未踏ジュニアは、みんな違うことをやっていて、成し遂げたいものがまったく違います。その中で、いろんな尺度で好きなことをして良いという環境なんです。これは、私の中ではほとんど初めての経験で、すごい貴重な経験でした。
1つの尺度でしか測られることがないときは、視野が狭くなるというか、自分がすべきことが狭まって見えていたと思います。でも、未踏ジュニアを経験したことで視野が広がって、もっと違うコミュニティに行って視野を広げてみたいという気持ちが強くなりました。自分の世界を広げる上で、イギリスに行くのがすごく魅力的に感じるようになりました。
それが、未踏ジュニアを経験して自分が一番変わったところかなと思います。
手厚いサポートで、
ピンチの場面はなかった
──未踏ジュニアの期間中、大変だったことはありましたか?
菅野さん:
すごくピンチだったという瞬間は、なかったですね。
というのも、チャットツールで「ここは、ちょっと分からないです」と書くと、「これは、こうなんじゃないかな」とすぐに教えてくれる環境が整っていたので。違うプロジェクトのメンターさんが答えてくれたりすることもあって、かなり手厚いサポートを受けることができました。
──成果発表前に、締め切りがツラいというのもなかったですか?
菅野さん:
あんまりないですね。
ちょっと大変だったのは、成果発表の直前に、絵を自分で描き直したことかな。最初は、シナリオの挿絵やキャラクターの写真を使っていたのですが、権利の関係から使えないということになって、頑張って鉛筆で描きました。
──例えばですが、未踏ジュニアに応募する前の時点に時間を巻き戻したら、もう一度チャレンジしますか?
菅野さん:
はい、間違いなくやります! もう3回ぐらい(笑)。
他人に面白いと思ってもらいたい人には、特にお勧め
──未踏ジュニアをお勧めするとしたら、どんな風に伝えますか?
菅野さん:
いろんな尺度でモノを見る力が身につく、ということですね。
未踏ジュニアをやると、いろんな尺度で測ったときに、自分のプロダクトで何を目指し、どう磨いていくのかを常に考えることになるので、それがすごく面白い。これは、大学に行っても、社会に出ても役立つなと実感しているので、このような経験ができる未踏ジュニアは、本当にお勧めです。
──未踏ジュニアには、どんな人が向いてると思いますか?
菅野さん:
私の中では、「自分が面白いと思っているプロダクトを作りたい」という人よりも、「他の人に、このプロダクトのことを面白いって思ってもらいたい」と考えている人のほうが楽しめるかなと思っています。
「これが作れたから楽しい」で終わるだけだと、楽しさが半減しているかな、と。
なぜかというと、未踏ジュニアの期間中、自分が作っているものについて話を聞いてもらう機会がたくさんあるんです。ちょっと進捗が出たらメンターさんに言いますし、合宿では、未踏ジュニアを修了された先輩にも話を聞いてもらえたりします。成果報告会も、もちろん、そうですし。いろんな人に話を聞いてもらって、「これ、いいね」と言ってもらえると、モチベーションになりますし、作っているサービスの力が増すような気がしています。自分がそうだったので、これは本当にお勧めです。
菅野 楓 (すがの かえで)
2014年、「U-22プログラミングコンテスト」に小学生初の入賞。2017年、未踏ジュ二ア採択、U-22プログラミングコンテストで経済産業大臣賞。2018年から英国留学、孫正義育英財団1期生。2020年、未踏IT人材発掘・育成事業に採択。2021年、英国の科学技術コンテスト「The Big Bang Competition」で優勝(UK Young Engineer of the Year 2021)。現在はロンドンで食べ歩きしながら、Imperial College LondonでAIと機械学習を学んでいます。